NEWS ポストセブン 1月29日(金)16時0分配信
『怪盗 山猫』好調の秘密とは? |
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『怪盗 山猫』は、「盗んで逃げる」ハラハラドキドキのアクションだけでなく、登場人物の生き様を描くヒューマン、謎めいた山猫のミステリーなどを盛り込んだ複合エンタメ作。さらに、「単なる金の亡者ではなく、一度もミスを犯すことなく悪人から大金を盗み、悪事の証拠だけを残して去る」という痛快なヒーロー要素を兼ね備えています。
亀梨和也さん演じる主人公の山猫が、清濁併せ呑むキャラクターであるのも魅力のひとつ。お金を盗むくせに、悪人を許さない。人をだまして利用するのに、心に響く言葉をぶつける。無駄に高いテンションとチラチラ見せる暴力的な横顔、「武士道」へのこだわり、規格外の音痴なども含め、視聴者に「山猫は何者なんだろう?」と人物像をつかませません。勧善懲悪の作品が多い中、「“正義かどうか分からない主人公”が悪人をやっつける」という図式が異彩を放っています。
もうひとつの魅力は、シリアスな展開。土曜9時の同枠は、子どもと一緒に家族で見やすい作品が多い中、亀梨さんと広瀬すずさんがつかみ合って絶叫したり、仲間のメンバーを山猫が殺したのかと思わせたり、衝撃的なシーンがありました。「怪盗」という題材で子ども向けのように見せておきながら、実は大人向けの骨太な要素を持つ作品だったのです。
骨太さを持つ作風がなぜ生まれたのか? その理由はスタッフの経歴にヒントがあります。プロデューサーの福井雄太さんは、養護施設の描写などで物議を醸した『明日、ママがいない』、当時ほぼ無名の広瀬すずさんを大抜擢した『学校のカイダン』を手がけた人物。20代中盤で日本テレビ史上最年少プロデューサーに起用されただけあって、若さあふれる思い切ったドラマ作りをする人です。
また、脚本の武藤将吾さんは、激しさとゆるさの両面を持つ主人公を描くのが得意。『家族ゲーム』で櫻井翔さんが演じた吉本荒野がそうだったように、人間の弱さを鋭くえぐるような山猫のセリフは見応えがあります。1話では「誰も助けてくれなかった?誰もそばにいてくれなかった?違うだろ!お前が何も見ようとしなかっただけだ。大事なもんはそこかしこにあったんだよ」、2話では「自分のケツが拭けなかったら、誰かに拭いてもらうしかねえんだよ!そういう人間を一人でも多く作るしかねえんだよ!どうやって作るか知ってるか?『ありがとう』だよ」というセリフが印象的でした。
視聴者はシリアスとコミカルのバランスがいい作品を見ると、「見応えと見やすさの両方があるな」と感じるもの。『怪盗 山猫』の原作は見応えのある小説ですが、ドラマ版は漫画のような見やすさを加えることで、人気を得ているような気がします。成宮寛貴さん、佐々木蔵之介さん、北村有起哉さん、菜々緒さんら助演キャストも、個性的で存在感たっぷりなので、最後まで楽しませてくれるのではないでしょうか。
【木村隆志】
コラムニスト、芸能・テレビ・ドラマ解説者、タレントインタビュアー。雑誌やウェブに月20~25本のコラムを提供するほか、『新・週刊フジテレビ批評』などに出演。取材歴2000人超のタレント専門インタビュアーでもある。1日のテレビ視聴は20時間(同時視聴含む)を超え、ドラマも毎クール全作品を視聴。さらに、独自のコミュニケーション理論をベースにした人間関係コンサルタントとして、1万人超の対人相談に乗っている。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』など。
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